いわゆる「生物系三大希書」

未来のコウモリ『アフターマン』から

こんにちは滅三川です。
今日は、「生物系三大奇書」というものを紹介していこうと思います。

三大奇書なんで3冊あります。これはどういったものかと言うと、三冊とも一見生き物に関する図鑑なんですけど、その本に登場しているのは、架空の生物、つまり実在しない生物、といった内容の本。

一冊ずつ紹介していきましょう。

『アフターマン』著/ドゥーガル・ディクソン

昔、少し話題にもなっていたので知ってる人も多いかもしれません。

この本は「マンのアフター」、人間のあと、つまり人類滅亡後の未来の生き物たちを紹介した本です。

でも普通、未来の生物なんて、分からないじゃないですか? ただ、この本は妄想のみで適当に書かれているわけではありません。

著者のドゥーガル・ディクソンさんは生物学者です。その生物学の知識、例えば現実の生物の生態、生態系、進化の知識ですね、そこから論理的に未来の生き物について考察していっています。

例えば、生物のニッチ、生態系的な位置付けから考察していきます。シマウマは「草を食べて肉食動物に食べられる4足で野を駆ける動物」というポジションに存在します。

シマウマがいない地域には、他の動物がこのポジションについています。さらに、それは、サバンナからシマウマがいなくなったら、ゆくゆくは他の動物がゆっくりとそのポジションを奪っていくという意味でもあります。

アフターマン世界では鹿が絶滅しており、そのニッチを埋めるようにウサギの四肢がより発達し、四本足で野を駆ける草食動物に進化していますし、狼のニッチを埋めるようにネズミが四足獣に進化したプレデターラットという動物が紹介されています。

こうした理論立てて実際には存在しない生物のことを考える分野を「思弁進化」と言います。他にも絶滅しなかった恐竜を想像して同作者が書いた「新恐竜」や、同じように未来の生物を想像した「フューチャーイズワイルド」、などの本があります。

面白い分野なのでぜひ調べてみてください。

『平行植物』著/レオ・レオニ

レオ・レオニは教科書でおなじみ、スイミーの作者でもあります。

この本は、名前のとおり植物の図鑑なんですが、実際は植物かどうか怪しいものも紹介されています。

この本も実際の図鑑のような語り口ではあるんですが、さっきの本とは大分違うところがあります。あくまでアフターマンは現実の生物の理論から未来の生物を予測していましたが、こちら平行植物はもっと奇妙奇天烈な理論の中で生きている生物の図鑑なんです。

たとえば、遠くから見ても近くで見ても同じ大きさに見える植物であったり、種子が宇宙を待っている植物であったりが、本当の植物図鑑がごとく紹介されているんです。

他の2冊に比べて、幻想色、ファンタジー色、あるいは詩的な要素の強い作品です。

『鼻行類』著/ハラルト・シュテュンプケ

これはハイアイアイという群島の珍しい生態系を紹介した本です。

ハイアイアイは1941年発見され、おろかにも人類の核実験の影響で沈んでしまった島です。そこは外とのつながりがあまりなく、独自の進化を遂げた生物たちによる独自の生態系が形成されていました。

具体的にいえば鼻が発達し、その鼻をうまく使う生態を持つ種がたくさん生息していたんですね。それらの種をまとめたあらたな分類を、尾行類と名付けました。

……というのが設定で、こちらももちろん架空生物の本です。この本は他の2冊に比べて、より学問チックな作品になっています。まあ、尾行「類」と言ってるように、種の分類などにも架空生物をフックにして深く突っ込んでいくわけです。

○○という生き物!○○という生態!みたいな図鑑的な内容よりも、そこから、どういう進化でどのように分類分けして~みたいな内容に重きを置いてるかんじですかね。
つまり一種の疑似科学、空想科学みたいな感じでしょうか。

また、アフターマンは現実の生物の理論から理論を形成して架空生物を生んでいましたが、尾行類は架空の生物を分析して理論だてていく、という体裁で書かれています。

よりフェイクドキュメンタリー感の強い作品でしょう。

ちなみに、こうした「架空生物を分析して理論だてる」という試みには、他にもカミナルキュールという架空生物の実験などがあります。またいずれラジオで話しますが、YouTubeでも一回話してるのでよかったらみてください。

最後に

ということで、今日は『生物系三大奇書』を紹介しました。架空生物っていうのがファンタジーや宗教、迷信だけによって作られているわけではないということがよくわかる三冊ですよね。


こうした分野もめちゃめちゃおもしろいので、ぜひ好きになってみてください。

また「生物系三大希書」という括りは一体誰が言い出したのかは分かりませんが、荒俣宏さんは『平行植物』『鼻行類』『新恐竜』を合わせて架空生物の三大名著と呼びました。

ここから誰かがインパクトの薄い『新恐竜』を『アフターマン』に入れ換えたような気がしますね。

アフターマンと新恐竜は最近新装版が出たので、手に入り安いはずです。興味のある人は購入してみると楽しいですよ。では!