どうも、滅三川です。あなたは最強の妖怪と聞いてなにを思い浮かべますか?
架空生物好きの間でもいろんな名前が出てきます、鬼だったり、孫悟空だったり、あと見ると死んでしまうみたいなズルい能力もちの妖怪だったり。
そんななか、最強とされる妖怪のなかで賛否両論の意見があるのが今日紹介する妖怪、「ソラナキ」あるいは「くうぼう」と呼ばれる妖怪です。
「くうぼう」と聞いてどういう漢字を書くのかわかった人もいるかもしれませんが空亡と書いてソラナキです。
こいつはなにものかというと、百鬼夜行絵巻、たくさんの妖怪がぞろぞろとパレードのように行進している種類の絵巻があるのですが、その絵巻の最後に登場する赤々とひかる巨大な火の玉なんですね。火の玉でしかないのに本当に妖怪なの?という話はひとまず、おいときましょうか
絵巻の中でパレードしていた多くの妖怪達はこの火の玉、ソラナキを前にめちゃくちゃビビったり、一目散に逃げ出したりしている様子が描かれています。そこからあらゆる妖怪を脅かす最強の妖怪、と解釈されています。
私も大好きな妖怪のひとつです。
ただ、このソラナキ、実はつい最近生まれたばかりの妖怪なんです。
だってそもそも、百鬼夜行絵巻には、巨大な火の玉が描かれているだけで、一回も「空亡」と名前が振られたこともないし、別に目玉も口もないんですから、別に妖怪と断言できないんですよ。パッとみは太陽みたいなもんですから。
ではなぜこいつが妖怪ソラナキとなったのか。
これは荒俣ひろし監修のトランプ、「陰陽妖怪絵札」がきっかけなんですね。
このトランプは百鬼夜行絵巻の妖怪達のイラストと解説が書かれたカードなんですが、そんななか百鬼夜行絵巻で一番目立っているとも言える火の玉のカードもあるんですね。
このカードの名前がズバリ「空亡」でした。この空亡っていうのは暦上の時期のことで天中殺といったほうが知名度が高いと思いますが、天が味方しない時期、のこと。
もちろん荒俣ひろしさん自身はあの火の玉を妖怪として紹介したつもりはなかったんでしょうが、いろんな種類の妖怪カードに混ざって入っている空亡のカードであったため、空亡という妖怪が存在するという誤解が生まれたんです。
その後ゲームなどの創作物によく登場するなどしてなんとなく知名度を上げていきました。また、暦の上での空亡と区別するため、ソラナキと呼ぶひとも増えたそうです。
さて、ではこの火の玉はもともとなんだったんでしょうか。
現代人の直感だと、火の玉は太陽で日の出から妖怪が逃げていく、というおきまりの様子を想定すると思います。
ただ、そうとも断言はできません。
百鬼夜行絵巻はかなりの種類があるのですが、ものによっては火の玉がまさしく赤々と燃えている「炎の玉」のように描かれていたりします。もちろん現代人からしたらそりゃ太陽は赤々と燃えている炎の玉そのものなんですけど、昔の人は肉眼で見た太陽しか知らないので、少なくとも太陽そのものを書いたとは言えません。
別のものを書いたか、何かしらの意味合いをくわえて脚色して太陽を書いたのか……
昔も日の出とともに鬼がさるという話はあるのですが、それ以外にも仏教を広めるためのお話などでお坊さんの信仰心による炎が妖怪、悪魔を退散させたり改心させたりする、という流れのお話もよくありました。
そのため、あれは太陽ではなくそういった神秘の力をあらわしたものとも考えられます。
まあ、数ある百鬼夜行絵巻の中には、明らかに太陽、日の出を描いているものや、明らかに太陽ではないものを書いている絵巻もあるので実際はひとつの答えとも言えないのかもしれません。
まあそれぞれの絵巻が書かれた順番を整理して、一番最初に書かれた火の玉こそが、本当の正体とも言えますけどね。
日の出=太陽説、日の出=信仰の炎説、そうした解釈が別れるなか出てきた、「火の玉=妖怪説」こそがソラナキとも言えるかもしれません。
百鬼夜行絵巻も奥が深いので、興味のある人はぜひ調べてください。
田中貴子さん達著作の『図説百鬼夜行絵巻を読む』
と
小松和彦さん著作の『百鬼夜行絵巻の謎』の二冊がおすすめです。
それでは!